官僚機構に潜む時間操作の秘密
ネオ東京の高層ビル群がそびえる近未来。主人公は6回目の面接で、想像を超える真実を告げられる。この仕事は単なる難民支援ではない。給与は現在の3倍、セキュリティクリアランスは最高レベル。だが、その業務内容は誰も教えてくれなかった。
「歴史からの亡命者」という衝撃
片眼に眼帯をした金髪の女性副長官は、主人公の母親がカンボジア難民だったことを正確に把握していた。しかし、この組織が保護するのは現代の難民ではない。「エクスパトリエーション(国外追放)省」の副長官は淡々と宣言する。「彼らは歴史からの亡命者です」
まるでコーヒーマシンの説明をするように、彼女は続ける。「私たちはタイムトラベルを実現した。ようこそ『タイム省』へ」
SFが描く官僚機構のディストピア
この小説の断片は、タイムトラベルが既に政府機関によって管理されているという設定を提示する。主人公が直面するのは、過去からの「亡命者」を管理するという異常な任務だ。組織はこれを「エクスパット(在外居住者)」と呼び、難民という表現を避ける。
現実の難民問題を想起させる描写と、SF的なタイムトラベル要素が融合した世界観は、現代社会の移民問題を別の角度から照射する。官僚機構による情報統制と、主人公の個人的なルーツが交差する瞬間は、読者に強い印象を残すだろう。
サイエンス・フィクションの新たな可能性
この作品は単なるタイムトラベル物語ではなく、移民・難民問題、アイデンティティ、政府の情報管理といった現代的なテーマをSFの枠組みで再考する試みだ。主人公の母親が「難民」と呼ばれることを拒否したという背景設定は、ラベルの持つ力について考えさせられる。
『ニューサイエンティスト』ブッククラブ最新選定作である本作は、科学的正確性と文学的深みを兼ね備えた、近未来SFの傑作として注目を集めている。