ネオ東京の地下で発見された”幸せ菌”の真実
暗く湿った地下道の壁に生息する微生物が、人間の精神を操る――そんなSFのような話が現実味を帯びてきた。土壌中に自然発生するマイコバクテリウム・バッカエ(Mycobacterium vaccae)という細菌が、抗うつ効果を持つという研究が注目を集めている。
ウガンダの土から見つかった奇跡
この微生物は元々、結核菌の無害な近縁種を探していた科学者によってウガンダの土壌から分離された。驚くべきことに、この細菌を投与された肺がん患者が、予期せぬ副作用として生活の質の向上を報告したことから、精神医学的な応用研究が始まった。
実験室のネズミを使った研究では、この細菌が脳内のセロトニンレベルを上昇させ、ストレス反応を軽減することが確認されている。まるでバイオテクノロジー企業が開発した最新の神経調整ドラッグのような効果だ。
しかし現実はもっと複雑だ
問題は、これまでの研究がすべて特定の系統の雄マウスを対象に行われた点にある。細菌は直接注射されるか餌に混ぜられて投与されており、土いじりで自然に摂取する状況とは大きく異なる。
さらに、動物実験で確認された効果のうち、人間で再現されるのは37%に過ぎないという統計もある。暗黒街で流通する情報とは異なり、現段階で「土を触るだけでうつ病が治る」と断言するのは時期尚早だろう。
緑の空間がもたらす真の力
とはいえ、自然環境が精神衛生に良い影響を与えることは多くの研究で確認されている。高層ビルが立ち並ぶメガロポリスでも、公園や緑地帯が人々の心のオアシスとなっている事実は否定できない。
マイコバクテリウム・バッカエの研究はまだ始まったばかりだ。この”幸せ菌”が本当にサイバーパンクな未来の精神医療を変えるのか、さらなる研究結果が待たれる。