時間の矢はどこから来るのか? 宇宙の始まりと終わりを解き明かすエントロピーの謎

時間の矢はどこから来るのか? 宇宙の始まりと終わりを解き明かすエントロピーの謎

ネオ東京の街を駆け抜けるバイクのヘッドライトのように、時間は一方向にしか進まない。この「時間の矢」の概念は、1920年代から物理学者たちを悩ませてきた。特にエントロピー(乱雑さの尺度)と時間の関係は、宇宙の始まりと終わりについての深い洞察を与えてくれる。

エントロピーが刻む時間の矢印

引き出しの中のスプーンとフォークを想像してみよう。整然と分けられた状態(低エントロピー)から、いつの間にか混ざり合った状態(高エントロピー)へ。この不可逆的な変化こそが、時間の矢の本質だ。量子スケールでは物理法則が時間反転対称性を持つにもかかわらず、我々の目に見えるマクロな世界では時間が一方向にしか流れないのはなぜか?

「過去仮説」という難題

宇宙の時間を巻き戻す思考実験を行うと、エントロピーが極めて低い状態に行き着く。物理学者たちはこの「過去仮説」に頭を悩ませてきた。なぜそんな特殊な初期状態が存在したのか? それはビッグバンとどう関係するのか? まるでサイバーパンクなダークマターのように、この謎は物理学の闇に潜んでいる。

逆転する宇宙モデル

パリ=サクレー大学のパブロ・アリギ氏らは、完全に可逆的な物理法則だけから成る「おもちゃの宇宙」モデルを構築した。驚くべきことに、宇宙が膨張し続ける限り、時間の矢は必然的に現れた。このモデルでは、ビッグバンの向こう側に別の宇宙が存在する可能性すら示唆されている。我々の宇宙の誕生が、その「鏡像宇宙」の過去から引き起こされたというのだ。

確率論を超えた現実

コロンビア大学の哲学者デイビッド・アルバート氏は、低エントロピー状態の「特別さ」について疑問を投げかける。「確率論的な抽象論議よりも、観測事実に基づくべきだ」と彼は主張する。量子フラクタルが織りなす宇宙のタペストリーにおいて、我々はまだほんの一部しか理解していない。

時間の起源をめぐる研究は、ビッグクランチ(宇宙の収縮)やビッグバウンス(膨張と収縮の循環)といった未来シナリオにも新たな光を当てている。ネオン輝く未来都市のように、物理学のフロンティアはまだまだ未知の可能性に満ちているのだ。