ラリイ・ニーヴンの『リングワールド』評:壮大な数学、残念なテーラ

ラリイ・ニーヴンの『リングワールド』評:壮大な数学、残念なテーラ

ネオ東京の電脳街を思わせる眩い光の中、ニュー・サイエンティスト書評クラブは1970年代SFの金字塔『リングワールド』を解剖した。巨大な人工環状世界というコンセプトは、今なお輝きを失わないが、その影には時代の限界がくっきりと浮かび上がる。

■ 宇宙規模の想像力と数学的美しさ

ディストピア的なメガストラクチャー「リングワールド」そのもののコンセプトは、今読んでも圧倒的だ。主人公ルイス・ウーが眺める「宇宙で最も高い滝」の描写や、殺人向日葵が茂るフィールド、深海が凸状に迫る光景は、サイバーパンク的なビジョンとして鮮烈に脳裏に焼き付く。ダイソン球にインスパイアされたこの設定は、数学的厳密さとSF的想像力が見事に融合した例と言える。

■ 時代に囚われたキャラクター描写

しかし、テーラ・ブラウンという女性キャラクターの扱いは現代の読者には耐え難い。優生実験の結果として描かれ、男性キャラクターから冷笑され、最終的には「男無しでは意味のある存在になれない」という結論に至るその展開は、ネオ東京の闇街で見つけた腐ったサイバーウェアのようだ。書評クラブのメンバーからは「200歳になっても共感性がこれほど低いとは」という痛烈な批判が相次いだ。

「人間中心主義」の限界

作中の「男性人類こそが宇宙で最も洞察力に優れた存在」という前提は、月面着陸直後の時代の人間の傲慢さを如実に反映している。これはちょうど、AKIRAの超能力者が暴走するように、技術進歩に精神性が追いつかない危うさを感じさせる。

■ 現代SFからの逆照射

アーシュラ・K・ル=グウィンやN・K・ジェミシンの作品と比べると、『リングワールド』の限界はより明確になる。数学的構想の美しさは評価されるべきだが、多様性に欠けたキャラクター描写や性差別的要素は、まるでオールドタイプのロボットが最新AIの前で無力に見えるかのようだ。

次回の書評クラブでは、時間旅行をテーマにした現代的作品『The Ministry of Time』をとりあげる。ベクデルテストを通過するこの作品が、『リングワールド』の課題をどう克服しているか、ネオ東京の摩天楼から銀河の果てまで視野を広げて検証していく。