ミクロの生命体が作る触手タワー:線虫の驚異の集合行動

ネオ東京の闇で蠢く、集合知の結晶

暗く湿った地下空間で、無数の微小生命体が秩序だった動きを見せる。まるでサイバーパンク世界の自律型ナノマシンのように、線虫と呼ばれる1mmほどの生物が集合し、巨大な触手状の構造体を形成する。この驚くべき現象が、ドイツのマックス・プランク動物行動研究所によって解明された。

飢餓が生み出す集合知

研究チームが発見したのは、線虫が食糧不足に直面した際、数千個体が協力して「タワー」を構築するメカニズムだ。特に広く研究されているC. elegansという種は、歯ブラシの毛一本を足場に、最大11mmの高さまで成長する構造体を作り上げる。野生では腐ったリンゴの上で確認され、その高さは50mmに達することもあるという。

移動手段としての生体構造

最も驚くべきはその機能だ。タワーの基部は固定されたままで、先端は触手のように伸縮し、近くの表面まで橋を架ける。個体では越えられない大きな隙間も、集合体なら容易に超えられる。さらに、ショウジョウバエの脚などに絡みつき、タワー全体が”ヒッチハイク”することも確認された。これは従来知られていた個体単位の移動方法を超える、全く新しい生存戦略だ。

生命の進化戦略に新たな光

研究によれば、この現象は特定の成長段階に限らず、あらゆる活動期の個体が参加できる。従来考えられていた「ダウアー幼虫」だけの特異行動ではないことが判明した。粘菌のように単細胞生物が集合体を形成する例は知られていたが、多細胞生物がこれほど組織的に協力行動をとる例は極めて珍しい。

この発見は、微小生物の社会性行動や進化的適応戦略についての理解を深めるものだ。ネオ東京の地下を這うようなこの現象が、生命の集合知の可能性を垣間見せてくれる。研究チームは今後、このメカニズムの遺伝的基盤や神経科学的プロセスの解明を目指すという。