日本の民間月面着陸機「レジリエンス」、月面に衝突し任務失敗

日本の民間月面着陸機「レジリエンス」、月面に衝突し任務失敗

漆黒の宇宙空間に浮かぶ月面を捉えた最後の映像。民間宇宙企業ispaceの月面着陸機「レジリエンス」は、運命の瞬間までその電子の瞳で冷たい月の砂漠を記録し続けた。しかし、歴史に名を刻むはずだったそのミッションは、UTC時間6月5日19時13分過ぎ、無情な衝突によって幕を閉じた。

運命を分けたレーザーセンサーの不具合

レジリエンスは月面から約20kmの高度まで順調に降下を続けていた。管制室のモニターに映し出されるテレメトリーデータは、全て正常値を示していた。しかし、メインエンジンを噴射して最終降下を開始した直後、全ての通信が途絶えた。後日の分析で明らかになったのは、月面までの距離を測定するレーザーセンサーの不具合だった。この致命的なエラーが着陸速度の調整を不能にし、機体は制御不能のまま月の重力に引き寄せられた。

前人未到の地を目指した迂回航路

レジリエンスは今年1月15日、SpaceXのロケットに搭載されて地球を旅立った。同じく月を目指したFirefly Aerospaceの着陸機が3月2日に着陸に成功する中、レジリエンスはより野心的なルートを選択。深宇宙へと進んだ後、軌道を変更して5月6日に月周回軌道に到達するという複雑な航路を辿った。その目的は、これまでどの探査機も到達したことのない「マレ・フリゴリス」と呼ばれる月の北部平原への着陸だった。

失われた科学ミッション

機体には6つの科学実験装置が搭載されていた。水を水素と酸素に分解する装置、藻類から食料を生産するモジュール、深宇宙放射線モニターなど、未来の月面基地建設を見据えた技術が詰まっていた。特に注目されていたのは「テナシウス」と名付けられた5kgの小型ローバーで、2週間にわたる予定だった任務期間中、月面を探索し貴重な画像を送信するはずだった。

ispaceの袴田武史CEOは声明で「現在、月面着陸成功の見込みはない。得られたテレメトリーデータを迅速に分析し、原因究明に全力を尽くす」と述べた。今回の失敗は、同社にとって2度目の月面着陸挫折となった。2023年の「HAKUTO-R」ミッションに続く苦い結果だ。

宇宙開発の新時代を切り開く民間企業の挑戦は続く。月面に散ったレジリエンスのデータは、次なる探査機の設計に活かされるだろう。ネオ東京のビルの屋上から見上げる月は、今夜も冷たく輝いている。