未来医療の夜明け:世界初のパーソナルCRISPR遺伝子治療
ネオ東京の医療研究所のような光景が現実に――。フィラデルフィア小児病院で、生後6ヶ月の男児KJが世界初のオーダーメイドCRISPR遺伝子治療を受け、驚くべき回復の兆しを見せている。まるでサイバーパンク映画の世界が現実になったかのようなこの治療法は、遺伝子編集技術の新たな可能性を切り開いた。
「未来医療」の第一歩
KJはCPS1遺伝子の両方に変異を持って生まれた。この遺伝子は肝臓でアンモニアを分解する酵素を作るため、変異があると血液中にアンモニアが蓄積し、脳に深刻なダメージを与える。この疾患を持つ子供の半数以上が命を落とすという。
研究チームはKJの遺伝子変異を分析し、わずか数ヶ月で彼専用の治療法を開発。FDA(米国食品医薬品局)は例外的に1週間で承認を下した。「ビジネス・アズ・ユージュアル(通常手続き)を待っている時間はなかった」とムスヌル博士は語る。
ベース編集技術による奇跡
治療にはCRISPRの進化版「ベース編集」技術が用いられた。2025年2月に少量投与され、その後段階的に増量。現在KJは以前より多くのタンパク質を摂取できるようになり、薬の量も減らせているという。
「これは医学の未来だ」とムスヌル博士は断言する。「現在治療法のない数千の希少遺伝子疾患に対する扉を開いた」
パーソナル医療の課題と展望
従来の遺伝子治療は「万人向け」だったが、今回の治療は個人専用。当然コストは膨大になるが、関係企業の協力で実現した。ムスヌル博士は「規模の経済が働けば、コストは桁違いに下がる」と楽観的だ。
英国遺伝子連盟のニック・ミード氏は「プラットフォームアプローチにより、最も稀な疾患でも治療が現実的になった」と評価。規制当局も変異ごとに承認プロセスをやり直す必要がない新たな枠組みを検討している。
まるでSFのようなこの治療法は、遺伝子疾患に苦しむ無数の家族に希望をもたらす。研究チームはさらなる飛躍として、出生前遺伝子編集の実現を目指している。AKIRAの世界が、少しずつ現実になりつつある。