AMOCの減速が沿岸洪水リスクを増大

最新の研究によると、大西洋の主要な海流システム「大西洋子午面循環(AMOC)」の減速が、米国北東部沿岸での海面上昇と洪水リスクを増大させていることが明らかになりました。この現象は、気候変動による既存の海面上昇に追加的に影響を与えています。

AMOCとは何か?

AMOCは大西洋を循環する海流システムで、低緯度から暖かい海水を北大西洋に運び、そこで冷えて塩分濃度が高くなり沈み込むことで循環しています。この「海洋のコンベアベルト」とも呼ばれるシステムは、地球の気候調節に重要な役割を果たしています。

研究の主要な発見

NOAAのリピン・チャン氏らによる研究チームは、ニューイングランド沿岸の潮位計データを1世紀以上さかのぼって分析しました。その結果、気候変動による着実な海面上昇に加え、AMOCの強弱と連動する数十年周期の海面変動パターンを発見しました。

研究では2つの異なる海洋モデルを使用し、AMOCの変動が地域の海面に与える影響を定量化しました。2005年以降の洪水の20~50%はAMOCの減速が原因であることが判明しました。

将来への影響

英国リバプール大学のクリス・ヒューズ氏(研究不参加)は「AMOCが海面上昇に実際に影響を与えていることが実証された」と評価しています。AMOCの完全な崩壊(可能性は低いが理論上あり得る)が起これば、海面が約24cm上昇する可能性があると指摘されています。

実用的な意義

AMOCの強弱には自然な周期があり、ある程度予測可能なため、この発見により最大3年先までの洪水多発年を予測できる可能性があります。これはインフラ整備や防災計画などの長期的な意思決定に役立つでしょう。

不確実性と今後の課題

近年のAMOC減速のうち、気候変動と自然変動の寄与率はまだ明確ではありません。しかしこの研究は、気候変動がAMOCにさらなる影響を与え、東海岸の海面上昇を加速させる可能性があるという予測を支持するものです。

この研究は、気候変動が海洋循環に及ぼす複雑な影響を理解する上で重要な一歩と言えます。沿岸地域の適応戦略を考える上で、AMOCの監視と理解がますます重要になっています。