米国大陸分裂帯で水素を探す探鉱者たち

太古の地殻裂け目が生むクリーンエネルギー

カンザスの牧草地にそびえる掘削リグが、次世代エネルギー革命の最前線を象徴している。オーストラリア企業HyTerraを筆頭に、複数の企業が米国中西部の地下深くに眠る「地質水素」の採掘に乗り出した。この水素は13億年前に北アメリカ大陸が分裂しかけた際に形成された「ミッドコンチネント・リフト」と呼ばれる巨大な地殻裂け目で生成されている。

ゴールドラッシュならぬ「水素ラッシュ」

この裂け目には鉄分を豊富に含むマントル岩石が露出しており、地下水と反応することで水素が発生する(蛇紋岩化反応)。カンザス東部では既存の石油・ガス井で高濃度の水素が検出されており、HyTerraと競合するKolomaなどが10万ヘクタール以上の土地で採掘権を取得。地元農家からは「衰退する地方都市を再生するチャンス」と期待の声が上がっている。

掘削現場からの最新報告

マンハッタン(カンザス州)南西部の掘削現場では、深度1600mを超える探査井で水素濃度が800ppm以上に上昇。同社の最初の井戸では96%という驚異的な濃度が記録された。しかし専門家は「高濃度検出≠商業的生産可能」と慎重な見方を示す。水素の分離・貯蔵・輸送技術や市場形成など、解決すべき課題は山積みだ。

エネルギー地政学を変える可能性

カンザス地質調査所のJay Kalbasは「もし大量の水素が生産可能なら、地域だけでなく国家のエネルギー構造を変えるだろう」と指摘する。化石燃料に依存する肥料生産や重工業、運輸部門での利用が期待されるが、現段階ではデータ収集が最優先。HyTerraは今年中に計5本の探査井を掘削し、水素生成メカニズムの解明に挑む。

深夜まで続く掘削作業の轟音が、新たなエネルギー時代の幕開けを告げている。だが、この「水素ラッシュ」が持続可能な未来につながるかどうかは、科学と経済の緻密な連携にかかっている。