サンゴ礁の減少がもたらす意外な気候変動緩和効果

暗い海に浮かぶ希望の光

ネオンが輝く未来都市の下、死にゆく海。2100年までにサンゴ礁が減少することで、海洋が吸収する二酸化炭素量が最大5%増加する可能性が最新研究で明らかになった。これは気候モデルに考慮されていなかった驚くべき副次効果だ。

逆説的な炭素循環メカニズム

従来、サンゴは炭酸カルシウムの骨格を形成する際に二酸化炭素を吸収すると考えられてきた。しかし実際には、この石灰化プロセスは二酸化炭素を海水に放出し、その一部が大気中に逃げている。ソルボンヌ大学のクワトコフスキー博士は「無機炭素を炭酸カルシウムに変換する過程でCO2が発生する」と説明する。

ディストピア的未来のシミュレーション

研究チームは、海水温上昇と海洋酸性化がサンゴに与える影響をコンピュータモデルで解析。2100年までに海洋が吸収する炭素量が1-5%、2300年までに最大13%増加すると予測した。これは過剰漁業やサンゴ病などの要因を考慮していないため、実際はさらに大きな効果となる可能性がある。

光と影のバランス

この現象は大気中のCO2濃度だけを見れば有益だが、生物多様性の喪失や漁業への打撃、海岸線の保護機能低下など、深刻な代償を伴う。ハワイ大学のジュリー博士は「最悪のシナリオが現実となれば、サンゴ礁はほぼ全滅する」と警告する。

適応可能性という不確定要素

一方で、この研究はサンゴの適応能力を考慮していない点に注意が必要だ。ジュリー博士は「中程度の気候変動下では、サンゴの適応によって異なる結論が導かれる可能性がある」と指摘する。

もしこの予測が正しければ、地球温暖化を一定レベルに抑えるために許容されるCO2排出量(カーボンバジェット)は、現在の想定よりわずかに大きくなる。クワトコフスキー博士は「たとえ予算を超えても、正確な数値を知ることは重要だ」と語る。

この研究は、気候変動の複雑な相互作用を理解する上で新たな視点を提供する。しかし、サンゴ礁の喪失という代償を払って得られるわずかな気候緩和効果は、未来都市のネオンに照らされた海のように、明るい未来とは言い難い。